MRI株式会社三菱総合研究所

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INCF「2019 社会課題セミナー」

INCF「2019 社会課題セミナー」会場の様子

INCFでは「イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧」(社会課題リスト)を更新し、2019年度版として公開、これを記念して、2019年8月5日に「INCF 2019 社会課題セミナー」を開催しました。猛暑のなか、INCF会員企業をはじめ報道関係者、社会課題に関心を有する一般参加者を加えた約90名が東京・大手町のGlobal Business Hub Tokyoに集まり、社会課題解決型事業を実践している企業等の講演とパネルディスカッションに熱心に耳を傾けました。

「2019年度版 社会課題リスト」のアップデートのポイント

三菱総合研究所 オープンイノベーション副センター長 須﨑 彩斗

三菱総合研究所 オープンイノベーション副センター長 須﨑 彩斗

開会に先駆けて、INCF事務局長 三菱総合研究所 オープンイノベーションセンター長の小野 由理が挨拶を行いました。「2017年にINCFを設立し、以来、社会課題解決に向けての取り組みを進めており、本趣旨に賛同いただき、会員として参加をいただいている企業・団体数も現在160を超えるまでになりました。社会課題解決型の事業への関心は年々高まっており、本日のセミナーをその参考としてほしい旨を述べました。

その後、オープンイノベーション副センター長 須﨑 彩斗から「2019年度版社会課題リスト」の概要、改訂ポイント等について報告を行いました。INCFでは①ウェルネス、②水・食料、③エネルギー・環境、④モビリティ、⑤防災・インフラ、⑥教育・人財育成の6分野の社会課題を取り上げ、社会課題の基本的構造を「問題」「課題」「解決」の三段階で整理しています。「2019年度版 社会課題リスト」では、各分野のタイトルページにその分野の背景・課題一覧を整理し、そのあとに問題の整理(定量化、日本・グローバルの問題切り分け)、課題の整理(課題解決のポイント)、解決への糸口(①技術動向、②規制動向)が記され、流れを追って読み解けるようにしました。

「2019年度版社会課題リスト」の概要、改訂ポイント

Copyright© Mitsubishi Research Institute, Inc.

巻末には3つの参考資料を追加し、①社会課題一覧では、6分野の問題・課題と解決のポイント、技術動向、規制動向を一覧で整理、②SDGs索引ではSDGsを起点として社会課題リストの問題・課題を明示、さらに③技術索引では、技術を起点として逆引きで対応する技術動向をご覧いただけるように整理しています。大変充実した内容のリストを「ぜひ広く活用していただきたい」と参加者のみなさまへの希望を述べて、須﨑 副センター長の説明は終わりました。

この日は参加者にできあがったばかりの冊子版が配布され、手にした方からは好評をいただきました。また、翌日からダウンロードも可能になり、すでに多くの方にご覧いただいております。

オープンCSVとグローバルな視野
三井化学株式会社

三井化学株式会社 ESG推進室ESGグループ SDGs-CSV担当課長 八木 正 氏

三井化学株式会社 ESG推進室ESGグループ SDGs-CSV担当課長
八木 正 氏

講演は二人のかたにお願いしました。

初めに登壇してくださったのは三井化学株式会社 ESG推進室ESGグループ SDGs-CSV担当課長の八木 正 氏です。「『新たな社会課題解決型事業を目指して』~既存技術を活用したCSVチャレンジ~」と題してご講演いただきました。

三井化学の歴史は食糧増産への対応から始まり、石炭化学事業における環境への配慮など、社会課題解決に取り組み続けてきました。2014年からは「新たな顧客価値の創造」を目指し、三井化学グループの事業活動を通じた社会課題解決への取組みに力を入れています。今回は、メガネレンズ材料の「Do Green™事業」と高機能包装用シーラントの「FASTAID事業」をご紹介いただきました。

三井化学のメガネレンズ材料は、世界市場のトップシェアを誇っています。「社内の事業部が積極的に協力してくれなければ、社会課題解決型事業は成功しない」と考え、メガネレンズ事業部との協働を模索して始まったのが「Do Green™検眼活動」でした。通常ガラスや石油系プラスチックで作られているメガネレンズを、植物(バイオマス原料)から作ることに挑戦しています。

Do Green™検眼活動は、弊社製品のバイオマス原料生産地であるグジャラートを活動拠点とすることで、第一目的とした現地でのバリューチェーン構築、様々なパートナーとのつながりができました。植物性のメガネレンズは高価で、主な購入者はインドの富裕層ですが、すべての関係者にとっての「Shared Value」形成を目指し、まずはメガネ材料の売上からの寄付やインド政府との協力によって活動を継続・発展させ、将来的にはアジア等の新興国へ検眼活動を広げていく予定です。

また、FASTAID事業では、「清潔な飲み水の不足」「生活に必要な栄養の不足」という問題を解決するために、三井化学グループのロック&ピール技術を活用した2in1のパッケージの商品化を目指して始めました。これは水と栄養を同時に支給できることで、栄養不足な状況や災害が発生した状況における課題を解決できるソリューションになりうる商品として期待されています。また同技術を用いることで他の課題解決への応用もNPOの方たちと検討を進めています。

社会課題解決型事業の実施にあたっては企業、行政、NGOなどの関係者との協力が必要ですが、その際に重要なのはテーマへの「共感」です。あるNPOの方から言われた「Open CSR」という言葉が八木氏のモチベーションとなっています。また、三井化学では環境・社会への貢献価値を「Blue Value®」「Rose Value™」として見える化し、既存ビジネス・新事業に価値を問う仕組みにしています。社会課題解決型事業の実施にあたっては、自社の強みを生かすこと、現地の課題をしっかり理解すること、そして社内外の関係者の共感を得ることの重要性を感じたお話でした。

三井化学講演資料はこちら

行政との連携で社会課題解決をスムーズにする
株式会社ウェルモ

株式会社ウェルモ 執行役員 地域ケアプラットフォーム推進本部 シニアマネージャー 木村 亮太 氏

株式会社ウェルモ 執行役員 地域ケアプラットフォーム推進本部
シニアマネージャー 木村 亮太 氏

続いて、株式会社ウェルモ 執行役員 地域ケアプラットフォーム推進本部 シニアマネージャーの木村 亮太 氏が「介護分野の情報集約とAIによるケアマネジャー支援」をテーマにご講演くださいました。

ウェルモでは、「社会課題をICTと先端技術の力で解決する」というコンセプトにもとづき、介護領域では「利用者本位と正当に評価される福祉業界の実現」、障害児童教育領域では「すべての子どもたちの可能性を解放すること」をミッションとしています。

介護分野では行政との連携が非常に重要であるため、本社は官公庁の多い霞ヶ関に置いています。さらに実際に地域に入り込んでいくために、福岡や札幌等の地方にも拠点を置いています。また、介護現場の課題を社会課題として解決に結びつけていくために、介護経験者を始め、多彩な人材がウェルモには在籍しています。

国の介護保険予算は増加傾向にあり、例えば介護給付額は2015年には10.5兆円、2025年には19.8兆円になると予測されています。一方、厚生労働省の事業で実施されたアンケートでは、50.4%のケアマネジャーが「自分の能力や資質に不安がある」と回答しています。ウェルモは「数兆円の給付意思決定が、不安を抱えた相談援助業務により成り立っている」という問題に着目しました。介護サービスの選択肢は複雑、多岐に渡り、ケアマネジャー等の専門職が相談援助業務を行うにあたって、法定研修の受講だけで補うのは難しいのが実情です。また、チラシ等の紙情報が多く、情報比較が困難なことや、スキルギャップによる相談援助の不安も生じています。

そこで、ウェルモは現場の負荷軽減と利用者本位の介護の実現のため、地域のケア情報を見える化したウェブサイト「ミルモネット」を考案、これにより、ケアマネジャー等の専門職が利用者のニーズに合わせた事業者を探し、わかりやすく提案することを可能にしました。さらにケアプラン作成支援AIの開発も進めています。政府の未来投資戦略においても介護分野のAI活用が検討されています。ウェルモでは、介護福祉分野におけるグローバルおよびローカルネットワークとAIを強みとし、「利用者とそのご家族に、あともう少しだけ、寄り添える余裕を」生み出すことを目指していきます。

木村 氏は「行政とも連携しつつ、多様な関係者の共感を得ながら介護分野の社会課題解決にむけて事業を一層進めていきたい。」と抱負を述べ講演を終えました。

ウェルモ講演資料はこちら

社会課題解決に「共感」は欠かせない~パネルディスカッション

ミュージックセキュリティーズ株式会社 代表取締役 小松 真実 氏

ミュージックセキュリティーズ株式会社 代表取締役 小松 真実 氏

セミナーの最後はパネルディスカッションを行いました。「大企業・スタートアップ・投資家の立場からみる社会課題解決」をテーマとし、パネリストにはご講演いただいた八木 氏、木村 氏のほか、ミュージックセキュリティーズ株式会社 代表取締役の小松 真実 氏と三菱総合研究所の常務研究理事 大石 善啓が加わり、モデレーターは小野 事務局長が務めました。

パネルディスカッションに先立ち、小松 氏より自社の事業概要を説明いただきました。ミュージックセキュリティーズは、アーティストが活動する上での課題を解決するため、資金調達できる証券会社を作りたいという小松氏の思いから創業されました。1人の出資者が1千万円を出資するよりも、1,000人が1万円を出資するほうがより「音楽ファンが広がる」というのが小松 氏の考えです。

音楽ファンドを運営することで、「リスクの担い手は多様であるほど良い」「共感とリスクには大きな関係がある」などを学び、個人が1万円から投資できるインパクト投資プラットフォーム「セキュリテ」の立ち上げにつながりました。現在、セキュリテは約10万人の投資家が登録するプラットフォームとなり、これまでの募集総額は約87億円となっています。セキュリテでは経済的な価値と社会的な価値の両方を追求しており、投資家が利回りや特典だけでなく、事業や経営者の考え方への共感、SDGs等の社会課題解決への共感など、「共感」によって出資することが大きな特徴です。

具体的なプロジェクト事例としては、「京大発VB 大腸がん個別化医療ファンド」「広島県がん検診推進SIBファンド1・2/株式会社キャンサースキャン」「東日本大震災時におけるセキュリテ被災地応援ファンド」などがあります。

ミュージックセキュリティーズ講演資料はこちら

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは、小野が「本日登壇頂いた3名のお話からは、『共感』というキーワードが浮かんでくるように思えた。社会課題解決事業を進めるにあたっては様々な苦労があったと思うが、その乗り越え方、共感の集め方、人の巻き込み方などについて伺いたい」と質問しました。

小松 氏は「共感にはいろんな種類がありますが、お互いに前向きになろうとしているところが共通していますね。事業のありかた社会的な価値のバランスを大事にしつつ、事業そのもののすばらしさを伝えるようにしています」、八木 氏は「きれいごとでは済まないことを正直に伝えています。事業を通じてシーズに持っていくのは時間がかかるのですが、それでも進めていけるのは共感があるから」、木村 氏は「本質的なことを訴え続けていると必ず共感してくれる人はいるはず。また、業者ではなく一緒に事業を進める仲間だと思ってもらえるための話し合いなど、積極的にコミュニケーションをとっています」と、それぞれの共感への考え方、取り組み方を答えてくださいました。

また小野より「テクノロジーをつかっても解決しない社会課題を解決する際にどんなことが必要か」と質問を投げかけたところ、木村 氏は「受容と改革、あるいは制度を変えるためにはロビイングが必要です。どうやって国全体を変えていくかが今の課題だと思っています」と回答しました。一方で小松 氏は「投資している大学の方以外にもわかりやすく説明するなどして、定量的なインパクト評価をします」と答えました。八木 氏は「デザインシンキングをして、モノよりコトづくりからはじめます。どんな解決法ならバランスが良いのかを考えながら達成感を感じられるようにしていると、その中から新しい種が出てくるでしょう」と三者三様でありつつ、いずれも興味深い意見が交わされました。

三菱総合研究所 常務研究理事 大石 善啓

三菱総合研究所 常務研究理事 大石 善啓

大石は社会課題解決をビジネスで解決する際のポイントについて、「社会課題解決型ビジネスの難しさは、社会課題が解決されてメリットを得られる人とそのコストを負担する人が異なる場合が多いことにあります。SDGsの多くのターゲットもそうです。今日の登壇者の皆様のお話からも、その点に関して社内外への働きかけでご苦労されていると感じました。また、供給側の論理ではなく利用者・生活者の立場で考えること、北欧やシンガポールなどのように社会の全体最適を考えて実装していくことが重要だと思います」と述べました。

会場からも質問が共感の輪が広がる

また、会場とのインタラクションを高めるため、関心のある社会課題分野やパネルディスカッションで議論して欲しいこと等、リアルタイムで参加者のコメント・質問を会場スクリーンに表示させるWebシステムを活用しました。

リアルタイムで参加者のコメント・質問を会場スクリーンに表示させるWebシステム

会場からの質問は続き「競争に参加し、成功する社内の環境づくりとは」という問いについては八木氏が「アイデアソンなどで場づくりをしています。共感の前に自分をさらし、人を知ることで、お互いの強みや役割がわかればやりがいも生まれてきます」とアドバイスしてくださいました。

「社会課題を解決するようなビジネスは会社を辞めて自分でやるのと、それとも会社を動かしてやるのとどちらがよいのか」という質問には木村 氏が回答しました。木村氏は「大企業でもプロジェクトがとん挫することもありますからケース・バイ・ケースで一概には答えられませんが、会社のリソースを使うことが最適でないなら、辞めたほうがよいでしょう。現在の環境下での自分自身をひもといたところに答えがあるのではないでしょうか」とご自身の考えを述べられました。

最後にパネリストから参加者に向けたメッセージをお願いしました。

小松 氏:
「社会課題解決に取り組む際、成功するビジネスもある一方で、もうからない解決策も山ほどあります。その際には行政や自治体のかかわりも重要となってきます。従来型の『助成』という形ではなく、成果報酬でもいいからというマインドがお互いに必要なのではないでしょうか」。

八木 氏:
「知らない人と新たに結びついてやっていけば新たな楽しみが生まれます。またアイデアソンなどをみなさんとしたいと思います」。

木村 氏:
「社会課題はアイデアを出して現場にぶつけたあとが一番大切で、現場目線であり続けることが大切だと考えます」。

大石:
「INCFはまさしく共感して共創していく場であり、ぜひ積極的にご活用をいただきたい。課題を先送りすることで、将来世代に付けを回すことのないよう、皆さんと共に社会課題解決に向けた取り組みを一層強化、推進していきたいと思います」。

三菱総合研究所 INCF事務局長 小野 由理

三菱総合研究所 INCF事務局長 小野 由理

その後、小野よりパネリストと参加者へのお礼と、より一層の「社会課題リスト」の活用のお願いを以てパネルディスカッションおよびセミナーは終了いたしました。今後も議論をさらに進め、来年度の「社会課題リスト」がより一層充実したものとなるよう、努力してまいります。(了)

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