MRI株式会社三菱総合研究所

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「人生100年時代のキャリア構築と
学び直し」セミナー

「人生100年時代のキャリア構築と学び直し」セミナー会場の様子

2018年9月28日、三菱総合研究所(以下、MRI)大会議室において、「人生100年時代のキャリア構築と学び直し」と題したセミナーを開催しました。前半の部では有識者からのご講演、後半の部では、学び直しSIGにて検討した内容の報告および意見交換を行い、活発な議論がなされました。当日は、INCF会員をはじめ、一般企業からの参加等、総勢150名を超え、盛会となりました。

人々の健康寿命が延び「人生100年時代」に入りつつあると言われる現在、定年延長の議論も現実味を帯びてきており、60歳を超えても社会で活躍できるようなキャリアを描いていく必要が出てきました。また、AI(人工知能)の発展など科学技術の急速な進歩に伴って、技術革新のスピードも速まり、ひとつのスキル、ひとつのキャリアだけでは環境の変化に対応しきれなくなってきたという現実もあります。そんな社会において長期間活躍を続けるためには、キャリアアップやスキルアップに挑戦していく必要があり、社会人の学び直しである「リカレント教育」の必要性が説かれています。

本セミナーの冒頭挨拶において、当社オープンイノベーションセンター長の小野 由理は、「現在の日本では、学び直しの機運が乏しい。企業は、人事評価に学び直しを反映させるなどして、機運醸成を図っていく必要があるのではないか。本セミナーでそのきっかけを見出してほしい」と期待を語りました。

講演「これからの働き方と学び直し」
東京大学大学院経済学研究科 柳川 範之 氏

東京大学大学院経済学研究科 柳川 範之 氏

60代、70代にも多くのチャンスがある

これまで、セカンドキャリアといえばスポーツ選手など一部の人たちに求められるものでした。しかし、元気に過ごせる時間が延びている現代においては、誰もがセカンドキャリアを考える必要が出てきたといえます。

日本政府は、そうしたセカンドキャリアへの準備なども含め、「働き方改革」を推進していますが、その裏にある産業構造の変化にこそ目を向けるべきと柳川教授は話します。「構造の変化は大きく二つ。ひとつはAI(人工知能)の発展によってもたらされた急速な変化です。技術革新により、副業もしやすくなりました。そんな中で、AIやITをうまく使える高所得者と、そうではない低所得者というように、雇用、所得の二極化が急速に進んでいます。もうひとつは、新たな働き方の登場です。クラウドソーシングやテレワークなどで、時間、空間にとらわれず仕事ができるようになってきました。では果たして会社で仕事をする必要があるか。労働時間を区別する必要があるか。そういった疑問や課題が生じたことで、働き方改革の議論が起きているのです」

柳川教授が強調されていたのが、技術革新のスピードの速さです。そして環境がどんどん変わっていく世の中においては、一つのスキルが陳腐化するサイクルも早くなるため、フロー化が進みます。学び直しにより新たな知識や能力を常にインプットし、スキルアップし続けないと活躍できなくなります。その反面、ひとつの環境で一度失敗しても、また新たな機会がどんどん生まれ、チャンスの数は多くなります。

また、人々が求める働き方にも多様性が出てきています。「これからは、80歳前後まで元気に働ける時代になるわけですが、例えば70代では、社会貢献をしたい、子ども世代のために活動したいという思いを持つ人が圧倒的に多くなっています。社会のために身体を動かすという働き方が求められ、企業にはそれを提供することが望まれているのです。また、より多様性のある雇用の在り方を実現するためには再教育システムの確立、スキルアップの機会の充実などの環境整備が必要となります。これらは政策課題であると同時に、企業の課題でもあるでしょう」

企業と個人の関係も、大きく変わっています。昔は終身雇用が前提でしたが、一つの企業だけに所属する時代はもはや終わりをつげ、転職、兼業や副業が当たり前になりつつあります。また人材はマクロ的には需給がマッチするかもしれませんが、スキルのミスマッチにより、企業が必要とする人材を確保するのが難しくなってきています。「企業としては、従業員を惹きつける魅力ある“場”を提供しないと人が集まりません。地位やお金が重要ではないとまではいいませんが、仕事の充実感や、やりたいこと、社会貢献という視点からの選択に応えることも含め、環境を整える必要があります」

求められる「能力開発」

今後の社会においては、60代、70代にも多くのチャンスがあると柳川教授。まず必要なのは、未来に目を向けることだと言います。「現在の会社に頼らず、その価値観から脱却して、未来のキャリアや将来を考えること。今の会社を辞めた後の自分を具体的に想像し、自分でキャリアを描くことが大切です。そして、その未来に向けた能力開発を行っていかねばなりません」

能力開発のためには、まず現時点での自分の能力がどの程度か知ることが最初のステップですが、多くの人は、知識や能力を持っているにも関わらず、それがわからないといいます。「せっかくの知識や情報も、断片的だとその会社でしか役立たないかのように見えてしまいます。これはいわば、将来を切り開く武器をたくさんもっているのに、それが大きな袋のなかに一緒くたに詰め込まれているせいで、取り出せないような状態です。それを棚に並べ、整理するには、“学問”が有効です。学問を使って、自らの知識を一般化・抽象化し、体系として捉えることで、知識や能力の原石が、輝く宝石となります。例えば、法律や経済など、社会学系の学問は、本来こうした知識の体系化のためにあります。哲学などの人文科学系の学問は、一般化・抽象化するうえで大いに役立ちます」

また、自分がこれまでやってきた仕事の補完的な領域にある仕事に手を広げる(スキルの斜め展開)ことも大切、とのこと。「例えば、ライターとカメラマンは補完性が強く、取材時は一緒に行動してひとつの記事を制作します。もしこれらを一人でこなせれば、転職の際には圧倒的に有利です。その他に、新たなスキルや能力が求められるかもしれません。その場合は、プログラミングやデータ解析など、今後の需要が見込める能力を身につけると良いでしょう」

講演「リカレント教育について〜骨太方針より〜」
内閣官房人生100年時代構想推進室 企画官 山口 正行 氏

内閣官房人生100年時代構想推進室 企画官 山口 正行 氏

労働者は、挑戦する姿勢を持つのが大切

日本は、健康寿命が世界一の長寿社会。リンダ・グラットンの著書『ライフ・シフト』で引用されている研究を基にすると、2007年までに日本で生まれた子供は、107歳まで生きる確率が50%もあります。安倍内閣総理大臣が2017年9月11日の第1回人生100年時代構想会議で出した指示によると、内閣が目指す一億総活躍社会を作り上げる上での本丸と位置付けられているのが、「人づくり革命」です。

「長寿社会において、人々がどのように活力を持って生きていくか、経済や社会システムがどうあるべきかというのが、安倍内閣が掲げる人づくり革命の根底にある大きなテーマ。こうした社会システムを実現するため、政府が今後4年間に実行していく政策のグランドデザインを検討する構想会議として、人生100年時代構想会議があります。会議の具体的なテーマは、すべての人に開かれた教育の確保や無償化などがありますが、何歳になっても学び直しができるリカレント教育もそのうちのひとつです。」

1920年代の平均的なライフサイクルを見ると、60歳前後で亡くなる直前まで働いていました。それが人生100年時代になり、老後が約42年も追加され、ライフサイクルは大きく変わりました。「長寿の時代をどう生きるべきか。働き方、学び方をどうするか。企業任せではなく、労働者自身が自らキャリアアップ、キャリアチェンジに挑戦するのが大切であり、ゆえにリカレント教育が重要であると考えています。老後というと、多くの人が晩年の過ごし方ばかり考えますが、必要なのは人生のステージの再設計であり、老後に入る前から検討しておくべきことです」

リカレント教育の現在

では現在のリカレント教育の実態はどうでしょうか。従業員が大学で学ぶことを許可しているかどうかを企業にアンケート調査したところ、特に定めていない企業が多かったようです。ちなみに、認めていない企業は、その理由として「本業に支障をきたす」などを挙げています。一方の労働者側も、その5割が「学び直し」を行っているというアンケート結果がありますが、ラジオやテレビ、インターネットによる自学自習が中心で、本格的な学びとはいえない状況です。「労働者において、リカレント教育の障害となっているのは、時間の余裕がない、費用がかかる、訓練コースや機関が見つからない、という三つの壁です。この課題をどうするか、議論する必要があります」

なお、リカレント教育の成功事例として挙げられたのが、日本女子大学におけるリカレント教育課程です。育児や夫の転勤などで離職した女性に対する1年間のリカレント教育を、2007年より提供しています。受講生は、本学OB以外の方が多いとのこと。再就職先にはそうそうたる企業が並んでおり、リカレント教育が機能していることがうかがえます。

雇用と学びのこれから

高齢者の雇用に関しても、その実情が語られました。「2002年の75歳〜79歳は、1992年の65〜69歳と同じ歩行速度であるというデータがあります。高齢者の身体機能は、年々若くなっています。知能の面でも、国際的な調査において日本の高齢者(60〜65歳)の読解力、数的思考力は平均値を上回っています。しかし、ITを活用した問題解決に関しては平均を下回っており、この点は課題といえるでしょう」

政府の実施した意識調査において、65歳を超えても、働きたいと回答した人は3人に2人。働けるうちはいつまでもと回答した人は約3割に上ったといいます。「必ずしもフルタイムではなく、柔軟に働きたいという希望が多いようです。働きたい高齢者が就労にあたって重視しているのは、健康の維持、達成感、新しい人と知り合うこと。収入への要望が低いというのも認識すべき点でしょう。採用する側の企業にとっても、人材不足の中、高齢者の採用が光となるはず。最初は高齢者雇用に消極的な企業が多いですが、一度雇えばその後は中高年に対する採用意識が高まるという傾向があります」

経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」は2018年6月15日に閣議決定されました。その中の「人材への投資」の項目の中に、リカレント教育があります。「ITスキルなどキャリアアップ効果の高い講座を対象に、一般教育訓練給付を2割から4割に倍増するなど、教育への投資を行っていく予定です。また、製造業OBをコンサルタントとして派遣するなど、生産性向上のためのコンサルタント人材の育成も推進していきます。高齢者雇用も促進し、65歳以上の継続雇用年齢の引き上げに向けて動いているところです。公務員の定年も、段階的に65歳に引き上げる方向で検討しています。中高年を対象に基礎的なIT・データスキル取得のための教育訓練を拡充し、支援していきます」

講演「変容する個人のキャリア戦略 激変する転職市場から見えてきた潮流」
株式会社リクルートキャリア 広報部 リクナビNEXT編集長/株式会社リクルート リクルート経営コンピタンス研究所 エバンジェリスト 藤井 薫 氏

株式会社リクルートキャリア 広報部 リクナビNEXT編集長/株式会社リクルート リクルート経営コンピタンス研究所 エバンジェリスト 藤井 薫 氏

転職市場では異次元の人材争奪戦が起きている

今世界中で、人とデジタルが共進化し、新たなビジネスモデルに移行する“デジタル・トランスフォーメーション”が全産業で進行中です。実際、世界の企業の時価総額トップテンを見てみると、“GAMFA”をはじめ大半をIT企業が占めています。10年前は日本企業が上位を占めていたことを考えれば、社会構造が大きく変化していると言えるでしょう。「ITで未来を引き寄せ、社会をアップデートするプレーヤーに、お金もチエも人材もが集まるようになりました。すなわち、富を生み出す方程式が変わったのです。

また、企業寿命と個人の職業寿命が逆転しているのも変化の核心です。健康寿命の延伸や生涯現役の意欲の高まりで個人の職業寿命が延びている反面、企業は商品や技術のコモディティ化のスピードが速く、企業の寿命はますます短命化しています。結果、“働き方・生き方の主権”は、変化に強い個人や、変化を支援できる企業に移行していくでしょう。

こうした流れを受けて、組織の統治機構も、コマンド&コントロール型からオープン&ネットワーク型に、一律一中心の管理統制から多様多中心の自己組織化に変わっていきます。「そうした移り変わりの早い世界において活躍するためのキーワードは、“しかけ”です。自ら機会を創り出し、機会によって自らを変える。そうした0から1のまったく新しい市場や機会を作る個人や企業に光が当たっていきます。逆に”しかけられる側”は、機会も光も遠のいてゆく時代なのです」

こうした社会構造の変化は、転職市場にも大きな影響を与えています。転職市場においては、現在空前の売り手市場といえ、リクルートキャリアが発表した今年7月の求人倍率は1.8倍となっています。また求人数も前年同月比125.6%。求職登録者数は前年同月比130.8%と、企業・個人共に、新たな成長を目指して新たな出会いを求める活動が活性化しています。

「転職市場では異次元の人材争奪戦が起きています。デジタルトランスフォーメーションを加速してくれるような人材が引っ張りだこで、業種や国境を越えて、求められています。求職者としては、規模や知名度よりも“成長への期待”を転職の決め手とする傾向があり、結果的に人材争奪戦で大企業がベンチャーに負けるようなこともおきています。異業種転職、ベンチャー転職が増え、40歳以上の転職も増加しています。例えば建設業界では一級建築士の資格保有者のニーズが強く、たとえ60歳であっても引く手あまたです。これまでの転職の常識が次々と崩れている現状を、私は“越境”というキーワードで表しています。越境(業界、規模、年齢)転職が当たり前になると、自らの人脈、スキルなどの多重活用が求められますから、それらを改めて棚卸しする必要があります」

学び直しが鍵に

企業内での過去の成功にとらわれず、個人におけるキャリア戦略として学び直しを考え、能力開発を目的とした学習をするのが、変化の時代の新たな成功につながる鍵になるといいます。

「学び方としては、所属する会社以外で、オタメシで実際に仕事をする中で学ぶことが大きな価値になると思います。企業側も、自社社員を外へと解き放ち、“他流試合”をしてもらうことで、異なる視点・異なる価値観・異なる知のネットワークを獲得し、その人材の才能が大きく成長開花します。副業ではなく“複業”。これからは、仕事も人生もパラレルに“しかけ”“学び”ことが、変化の時代・多中心の時代に即した新たな働き方・生き方になるはずです」

意見交換

株式会社三菱総合研究所 高橋 寿夫

株式会社三菱総合研究所 高橋 寿夫

3つの講演に続き、当社主席研究員の高橋 寿夫から、「学び直し」SIGの概要を説明しました。高橋は、少子高齢化やデジタル技術の普及で失われる雇用と生まれる雇用の差などから、10年後には人材過剰時代の到来が予測されていること、その社会で働いていくには、これまでのような企業任せのキャリア設計ではなく、60歳を超えても第一線で活躍できる準備しておく必要があることを解説。

「その準備として、40代からさまざまな体験を積み、学び直しをすることが大切です。リカレント教育がブームになっていますが、学び直しへの希望はあるものの、実際には行動していない人が多く、ブームで終わってしまうかもしれません。こうした背景のもと、SIGでは、セカンドキャリア形成のための学びの機会の提供や、学んだことを生かせる仕組みの構築、ムーブメントをおこすための機運醸成の方法などを検討しました」

その議論から40代、50代、女性を対象にした具体的なビジネス案が出てきました。40代に対しては、漠然とした不安はあるものの「やるべきことが分からない」ことが課題であるとし、自身の志向やスキルから何を学べば良いか診断するする検診サービス「やるべき+αを発見」を提案。50代に対しては、地方中小企業での兼業・副業を研修として体験できる「変身資産形成支援研修サービス」の提案を行っています。

左:JOINS株式会社 代表取締役 猪尾 愛隆 氏 / 右:ネットワンシステムズ株式会社 経営企画本部 新規事業推進室 松本 大平 氏

左:JOINS株式会社 代表取締役 猪尾 愛隆 氏 / 右:ネットワンシステムズ株式会社 経営企画本部 新規事業推進室 松本 大平 氏

女性向けには、結婚や出産を機にキャリアを中断している女性の再就職にあたり、実質自己負担なしで職業体験と訓練、就職までをワンストップで行うサービス「リカレントママ」を提案しています。

なお、それぞれのビジネス案の詳細については、ネットワンシステムズ株式会社の松本 大平 氏から「リカレントママ」を、JOINS株式会社の猪尾 愛隆 氏から「変身資産形成支援研修サービス」を解説いただき、「やるべき+αを発見」については当社の高橋からサービスの特徴等について説明しました。その後は、意見交換会がスタート。「リカレントママ」「変身資産形成支援研修サービス」「やるべき+αを発見」それぞれのブースが設けられ、参加者は関心のあるテーマのブースへと足を運んで、より掘り下げた内容を質問し、熱心に耳を傾けていました。

人生100年時代を豊かに過ごすための“学び直し”。自身が学ぶ姿勢を持つこととともに企業側はそれを評価し、人材を有効に活用することが求められます。今回、有識者からの講演に加え、問題意識を持つ方々との意見交換により、色々な角度から多くの示唆を得られたセミナーとなりました。今後、INCFでは、学び直しの機運醸成を推進していきます。

意見交換会の様子

意見交換会の様子

当日の講演資料をご希望の方は、INCF事務局(incf@mri.co.jp)までご一報ください。
※一部、参加者に限定した資料(配布期間:12月末まで)もございます。あらかじめご了承ください。

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