MRI株式会社三菱総合研究所

INNOVATION NETWORK FOR CO-CREATING THE FUTURE

ビジネス・アクセラレーション・プログラム 2018

INCF「2018 社会課題セミナー」

INCF「2018 社会課題セミナー」会場の様子

2018年7月26日、大手町のGlobal Business Hub Tokyo にて、INCF「2018 社会課題セミナー」(主催:三菱総合研究所(MRI)/後援:科学技術振興機構(JST))を開催しました。当日はINCF 会員企業はじめ、JST・報道関係者等、総勢約100名が参加し、盛会となりました。

INCFで取り組む社会課題

三菱総合研究所 常務研究理事 大石 善啓

三菱総合研究所 常務研究理事 大石 善啓

MRIでは、INCFのミッションを実現する活動の一環として、重点6分野(①ウェルネス、②水・食料、③エネルギー・環境、④モビリティ、⑤防災・インフラ、⑥教育・人財育成)における社会課題の設定をおこない、その解決策を例示した『イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧』(以下、社会課題一覧)を昨年より発行しています。

今般、内容を大幅にリニューアルした2018年度版を発行しました。これを踏まえ、当社常務研究理事の大石 善啓より「INCFで取り組む社会課題」と題し『社会課題一覧』の概要を紹介しました。

SDGsを使った課題整理

最新版では、社会課題の整理にあたって「グローバル」を強く意識し、国連が掲げる「SDGs」(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)で取り上げられた、17のゴールと169のターゲットについて、技術革新あるいはビジネスによる解決の可能性を評価し、これを社会課題一覧に組み込みました。そのうえで、グローバルな社会課題を(1)日本では解決済み、(2)世界に先駆けて日本が直面している、(3)放置すると日本にも影響・リスクが及ぶという3つの類型に整理し、今後日本が社会課題解決においてどのような立場で、どのように活動していくことができるのかを提示しています。

例えばウェルネス分野では、高齢化、社会保障費の増大、生活習慣病の増加、医療格差、感染症などの国内外の社会的状況、問題から、ビジネス化の可能性、社会的インパクトのより大きいものとして「予兆把握・予防による健康の維持・増進」「医療・介護サービスの効率的な提供」「高齢者の自立度向上」「感染症の予防・拡大防止」という4つの課題=チャレンジを設定しています。

SDGsの169ターゲット評価結果

Copyright© Mitsubishi Research Institute, Inc.

日本の強み「共創力」を活かして社会課題解決を

「分野に寄らず、“供給サイド主導から需要サイド主導へ”、“個別商品の選択からトータルの価値の最大化へ」”、というのが共通の市場変化のトレンドとなっている。こうした変化のドライバーになっているのが、人口減少や高齢化、財政悪化などの「社会環境変化」、自由化や官から民への「規制・制度改革」、情報のオープン化をはじめとする「技術革新」、「価値観の多様化」である。こうした観点から6分野の社会課題を見て頂きたい。」

「日本は、オープン化や社会実装のスピードではアメリカのシリコンバレーや中国の深センには敵わない。また、欧州が注力する標準化やルール作りのような“上流側の戦略”でも遅れをとっている。日本型イノベーションエコシステムのあり方として重要なのが、『共創力』である。企業、研究機関、大学等レベルの高い多様なプレイヤーが集積しているのが日本の強みでありながら、共創力が発揮できていない。産官学が総力を結集してイノベーションを起こしていく、世界に先駆けて社会課題を解決することが新たな成長のエンジンとなる。これを実現するひとつの場、機会としてINCFを活用いただきたい。」と報告を締め括りました。

社会課題解決のための科学技術

科学技術振興機構 経営企画部長 次田 彰 氏

科学技術振興機構 経営企画部長 次田 彰 氏

続いて、日本の科学技術の発展を支えるため、研究資金を競争的に配分する役割を担っている国立研究開発法人である科学技術振興機構(JST)の経営企画部長 次田 彰 氏から、社会課題解決のためにJSTが展開している事業のご紹介、並びに「アワード型研究開発、コンテスト」について、その可能性や意義について解説をいただきました。

社会課題解決とJST

JSTの社会課題解決に関する事業には、「未来社会創造事業」、「社会技術研究開発センター(RISTEX)」、「センター・オブ・イノベーション(COI)」、「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」があります。

未来社会創造事業は、テーマ設定に特徴があり、社会的インパクトの大きい、チャレンジングなテーマを設定し、バックキャスティングで研究テーマを募集しています。RISTEXは、科学技術の社会への還元や実装を、プロセス込みで研究していく組織です。一例を挙げると、群馬大学が開発した「津波災害シミュレータ」を岩手県釜石市に根付かせる支援をおこない、その結果、2011年の東日本大震災の折に、子どもたちが率先して津波から避難して生存率99.8%を記録した「釜石の奇跡」にもつながっています。

COIも未来社会創造事業同様、バックキャスティングによる研究開発支援プログラムです。文部科学省が設定した10年後のビジョンからバックキャストするという、ビジョン主導型のチャレンジング、ハイリスクな研究開発を支援するものです。SATREPSは、開発途上国を対象とするもので、政府開発援助(ODA)やJICAの活動と協働しています。SDGsともリンクし、途上国の社会課題に直接的に貢献するもので、現在30カ国で52プロジェクトが進行中です。そして、今年度中の立ち上げを目指しスタートしたのが「未来社会デザイン・オープン・プラットフォーム CHANCE」です。研究機関や企業に加え、他のファンディング機関も交えた、セクターを越えた協働の場を通じて、アウトカムを最大化し、目指す未来の社会を作り上げるプラットフォームの構築を目指しています。

未来社会デザイン・オープンプラットフォーム CHANCE

Copyright© Japan Science and Technology

アワード型研究開発の可能性

アワード型、または懸賞金型とも呼ばれる研究開発コンテストは、研究開発費の支援を受ける代わりに、最終的なコンテストの入賞者が賞金を受け取るもの。日本ではまだ知名度の高い取組はなされていませんが、世界的には注目されているアワードであり、大きな成果を挙げています。その嚆矢となったのが、1996年スタートの「X PRIZE」、アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)の「DARPA Robotics Challenge(DRC)」などです。例えばDRCは、福島第一原子力発電所の事故に触発され、人間が活動できない過酷な環境下で、「乗り物を操作する」「不整地を歩く」「入り口を塞ぐデブリを取り除く」といった8種の動作をクリアするロボットの開発をテーマとしていましたが、必ずしもロボットそのものを開発しなければならないわけではありません。トラックA~Dと呼ばれるエントリーカテゴリによって、ソフトのみの開発など参加者は自分の得意とするところで勝負することができます。これによって、アワードの土俵にベスト・アベイラブル・ナレッジもしくはテクノロジーが集められることになり、単独で開発している際に生まれる技術的なボトルネックが生じにくく、大きな飛躍を生むことができます。

また、その成果の社会的インパクトの大きさもアワード型研究開発の特徴のひとつです。最初のX PRIZEである「Ansari X Prize」は、それまで国家のものだった有人の宇宙開発を民間の手で実現した初めての例となりました。X PRIZE財団が「人類のための根本的なブレークスルーをもたらす」と謳うように、垣根を超えて糾合された技術がもたらすインパクトは社会を大きく変える力を持っています。アワード型研究開発制度については、日本でも経済産業省で長年検討された経緯があるが、使途に制限のない賞金を国費から出すことは、現在の日本では極めてハードルが高い。次田部長からは「とはいえ、アワード型研究開発の社会課題解決に向けた技術や人材の糾合力は捨てがたい。例えば、DARPAの懸賞金型のファンディングでは、賞金については、数億円から数百万円レベルのものまである。CSRの観点も含め民間企業での取り組みに期待したい」とのコメントがありました。

企業による社会課題解決へのチャレンジ ―ANA AVATAR VISION―

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクター 深掘 昂 氏

ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ
アバター・プログラム・ディレクター 深掘 昂 氏

講演の最後として、ANAホールディングス アバター・プログラム・ディレクター 深堀 昂氏に登壇をいただき、XPRIZE財団が主催する国際賞金レースのテーマに採用された 「ANA AVATAR XPRIZE」、その後策定された「ANA AVATAR VISION 」について解説をいただきました。

「ANA AVATAR」とは

深堀 氏曰く、「現在、エアラインを利用してグローバルに繋がっている人は全世界人口の6%に過ぎない。この数字を100%にしたいという想いが、AVATARを考えるきっかけになった」とのこと。

ANA AVATARとは、ANAが考える新たな移動手段のコンセプトである。視覚、聴覚、触覚を伝送する技術を用いて、意識、存在感、技能を瞬間移動させる。世界各地にあるアバターロボットに、アプリケーション『avatarin』で接続し、身体的な制限や距離、時間等あらゆる制限をこえて様々な体験を可能にしようという構想。

これを実現するため、現在、体験可能なメニューとして、宇宙開発・宇宙体験、教育・コミュニケーション、医療・ヘルスケア、スポーツ・観戦、スキルシェア、エンターテイメントなどの領域で、アバターと付帯するサービスを開発し、実装の準備を進めています。「例えば、オリンピックの時に身体的な制限がある方が、聖火ランナーとして走ることができたり、また世界中からアバターに接続して通訳等を行うアバターボランティアを募集するなど・・・」。「また、特定の人の持っているスキルを、ハプティクス(触覚)を用いて共有できるようになると、石川遼選手(ANA所属)のスイングを触覚スーツを着て体感しながら学ぶことができるかもしれない。」

その付帯サービスとして、アバターのロボット販売、アバターを通じて得られる行動データやスキルの販売、アバターの視覚システムを経由してライブでの案内表示や広告配信などを想定しています。

実装に向けた取り組み

ANAではavatarinを実現するために、2つの取り組みを開始しました。

(1)高性能アバターの開発レース:

これは、高性能のアバターを開発するレース。2018年3月にテクノロジーの祭典SXSWにてXPRIZE財団の創業者ピーター・ディアマンテス氏と共に発表したものですが、既に事前登録は50ヵ国、400チームを超えています。ただ、賞金レースを立ち上げたからといってアバター市場ができるわけではありません。高性能のアバター開発とともに既存アバター技術を用いたサービス化も大切だと考えています。多くの人は高性能アバターよりも日常的に使える廉価なアバターを求めているのではないか。快適な移動サービスを追い求めるエアラインとして、アバターという新たな移動手段で移動時間を短縮し、自分の人生の時間を有効に活用できる新たなライフスタイルを提案していきたい。将来、ANAのWEBサイトにいくと、「飛行機で移動しますか?アバターで移動しますか?」と移動手段を選べるようになると信じています。

2015年までX PRIZE財団が主催する賞金レースは財団内の研究者が賞金レースを設計してきました。しかし2016年に新しい試みとして始まったのが、次期賞金レースのテーマ・内容自体をコンペにする『X PRIZE VISIONEERS』。シンガポール政府やデロイトコンサルティング等の名立たるグローバル企業、計9社のなかで、ANAの提案がグランプリ受賞となりました。当初はテレポーテーションの賞金レースを考えていましたが、その分野の権威ある専門家に聞くと物質のテレポーテーションには100年以上かかると言われ、アバターという感覚のテレポーションに変更したという経緯があります。

ANA AVATAR X PRIZEは、賞金総額1,000万ドル(約10億円)でレース期間は4年間。書類選考、予選および本選を経て優勝チームを決定します。テーマは「1体で単純作業から複雑な作業までさまざまなことができるジェネラル・パーパス・アバターの開発」。

今回、シンギュラリティという言葉を生みだしたレイ・カーツワイル氏やセグウェイの開発者であるディーン・ケイマン氏をはじめ、国内外の著名な研究者、ビジョナリー、経営者らがアドバイザーとして“無償で参画”しています。深堀 氏は、この理由として、「ANAに協力したいのではなく、ANA AVATAR X PRIZEには、これまで人類が制限されてきた、身体的な制限、生まれた場所、距離等を歴史上初めてこえられる可能性があり、本プロジェクトが人類のためになると信じてくれたからではないかと思っている」と述べました。

(2)既存技術を用いたサービス化:

もう一つの取り組みが既存技術を用いたサービス化です。理想論ではなく、どう自分の生活に役立つのかが市場を創るには重要です。現在、アバター実証のために東京からある程度離れた場所ということで、大分県を世界初のアバターテストフィールドとして選定し、横断的に実証実験を開始しました。

テストフィールドの規模を県レベルにしたのには理由があります。アバターは瞬間移動するため、アバターロボットが観光地を二足歩行することや、教育現場や医療機関にアバターが入る場合、教育委員会や病院の倫理委員会等、様々な関係機関との調整が必要となるため、これを横断的、一元的にカバーできるところがないと成立しません。現在、世界中から企業を集めて、産官学連携で宇宙開発、教育、医療、観光、農業の分野で実証実験に取り組んでいます。

アバターのサービス化として、まずユースケースを設定し、ユースケースにあった技術を賞金レースに参加表明している世界中のスタートアップの中から選定しプロトタイプを共同製作し、ANAのavatarinプラットフォームに接続しています。例えば、Suitabletech社のテレプレゼンスロボット「Beam Pro」をavatarinに接続して行うコミュニケーション型のアバターサービスや、慶應義塾大学の力触覚技術を使ったアバターフィッシングサービスの開発等。東京に居る小学生が大間のマグロを吊り上げることもできます。他にもダイビングアバター(メルティン社)の開発等実証実験の幅も広がっています。

最後に深堀 氏は次のように述べ、講演を締め括りました。「この先、AIの時代が来ると言われている。AIの普及によって単純作業や仕事を減らしてくれるかもしれない。こうなると、少々哲学的ではあるが、必ず『人間とは?』、『なぜ生きているのか?』『なぜ働くのか?』と考えるようになる。そこで重要なのが、体験によって得られる人の経験知だ。形式知はAIで、経験知はアバターではないか。アバターを使えば経験知を得る機会は爆発的に増えることになる。結果、経験知が蓄積されることで、形式知であるAIというツールに使われるのではなく、今よりうまく使いこなせるようになるだろう。いずれは全世界75億人の経験知を共有して社会課題を解決する時代に突入することになると期待している」

ANA avatarin

Copyright© ANA HOLDINGS INC. All rights reserved.

対談「大きな社会課題解決のための日本の役割」

科学技術振興機構 理事長 濵口 道成 氏、三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏、ファシリテーター:三菱総合研究所 研究理事 亀井 信一

最後のセッションとして、JST理事長の濵口 道成 氏とMRI理事長の小宮山 宏が対談、社会課題解決における日本の役割等について議論しました。ファシリテーターはMRI研究理事の亀井 信一が務めました。今回、会場とのインタラクションを高めるため、リアルタイムで参加者のコメント・質問を会場スクリーンに表示させるWebシステムを活用し、対談は大いに盛り上がりました。

(左)科学技術振興機構 理事長 濵口 道成 氏、(右)三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏

(左)科学技術振興機構 理事長 濵口 道成 氏、(右)三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏

講演内容についての感想・意見

冒頭、Webシステムを使って来場者に回答いただいたアンケート結果を紹介しました。「6つの社会課題のうちもっとも関心のある分野は?」との質問には、「教育・人財」を挙げる方が圧倒的に多く、続いて、「ウェルネス」「エネルギー・環境」の順になりました。また「X PRIZEのような大型賞金レースは日本に必要か」という設問に対して、「必要」が75%、「不要」4%、「わからない」21%という結果となりました。

三菱総合研究所 研究理事 亀井 信一

三菱総合研究所 研究理事 亀井 信一

これを受け、亀井から「日本の社会課題解決には産官学がオープンイノベーションを共創するプラットフォームや仕組みが必要というのは共通認識だったように思う」と述べたうえで、本日の講演についての率直な感想、意見について両氏に投げかけました。

濵口 氏は会場の興味の対象が「教育・人財」に集中していることについて、「その背景として産官学連携が悪く、皆がそれを肌で感じているからではないか。知財や高度人材が上手くつながらない。ゆえにプラットフォームを作って協働することが非常に重要である。ANAのXPRIZEがこれを具体例として示しており、大変感動した次第である。」とコメントしました。

小宮山は「賞金レースはぜひやるべき」。「既存の知識や要素技術から最適なものを選び出し、これらを最適に結合することで、ほとんどの社会課題は解決できる筈。賞金レースはそのためのもの。ノーベル賞を取ったり、『Nature』誌に載ったりするようなものではないが、極めて有効なものだと思う」との基本認識を示しました。

日本の課題の本質とは

続いて、亀井がなかなか産官学の連携の体制が整わない日本の状況、一方で欧米や中国では速いスピードでイノベーションが起きていることなどに触れ、「日本にある課題の根底はどこにあると考えるか」と質問を投げかけました。

(左)科学技術振興機構 理事長 濵口 道成 氏、(右)三菱総合研究所 理事長 小宮山 宏

濵口 氏は「戦後日本の成功体験が呪縛になって、なかなかそこから逃れられないでいる」と分析しています。高度経済成長を支えた日本のシステム(生涯雇用、年功序列のシステム、縦割のセクショナリズム等)が成功したがゆえに硬直化してしまっている。「インターネットで世界とつながっているのに、隣の人とは話せない。この歪な組織構造を作ってきたのが、戦後日本であり、現在50~60代の“男社会”である。結婚や育児で仕事を離れた女性の就業率を上げるだけで、400万人不足しているという労働力人口問題は解消される。いまや、AIやIoTの力で、これをダイナミックに変えるフェーズに来ているのではないか」また、「昨年JSTが主催して開催した『ジェンダーサミット10』のなかで、17領域の特許データを調べたところ、男性だけが出した特許と女性が参加した特許では、女性が参加したほうが、平均で20%競争力が高いことがデータでも裏付けられている」と解説を加えました。

小宮山は、人財を活用するエコシステムの欠如が日本の課題と指摘。「JSTで推進しているCOIでは、イノベーションのエコシステムを本気で作ろうとしている。一つ屋根の下で、マネジメントシステムを作る、コミットメントする人が本気でやらなければならない。また、大学をもっとうまく使いたい。新しいことが生まれるには、いろいろな知識が交わる必要があり、特任教授の招聘はじめ、それを実現できるのが大学という場。学生がいるということも重要。既に11の寄付講座ができている弘前大学のような産学連携も始まっている。COIは、日本が50年の産官学連携の失敗の歴史から学んだ、ひとつの成功例と言えるものであり、今後いくつか作れると思う。」と述べました。

シニアの役割は?

前段の「50~60代の男性による弊害」という濵口 氏の指摘に対して、亀井から「そうは言っても、これからの日本ではシニアの活躍も期待されるのでは」と投げかけがありました。これを受けて、濵口氏は、知性には、「流動的知性(Fluid intelligence)と、結晶的知性(Crystallized intelligence)の2つの種類があると説明。「流動的知性は、ノーベル賞を取るような人のひらめきやアイデアを指すが、これは28才がピーク。一方の結晶的知性は、経験知、社会知による知性であり、70才がピークと言われている。そして、社会知から出てくるイノベーションはたくさんある。これには閃きは不要。イノベーションに大事なのは繋ぐことであり、ネットワーキングすること。但し、これには多様な経験が必要であり、アバターによって体験知が広がれば、イノベーションの枠も広がるのでないか。」と指摘しました。

小宮山は、「年寄りがやりたいのは『過去のことを教えたい』ということ。しかし聞きたい人はいない。だから、経験知を持ったシニアは『一緒に未来のことを考えましょう』という謙虚さが必要だ。それができれば年寄りは立派な日本の財産になることは間違いない」とコメントしました。

現状打破に向けて

次に、イノベーション、社会課題解決が進まない現状をどのように打破すれば良いのかとの質問に移り、亀井からは、「社会課題の解決というと、とかく先端技術に頼りがちなのが日本人。今ある知についても体系化ができていない、組み合わせられない、というのが現状。具体的にco-creationを進めるにはどうしたらいいのか。目標突破型の賞金レースもひとつの解かもしれないが、具体的な方策についてどう考えるか伺いたい」と問い掛けをおこないました。

濵口 氏によれば、「例えば分子生物学だけでも年間150万本の論文が出るような現代では、本当の意味での専門家はいないし、知の体系化をすることは不可能だ。そこで必要なのが10年後のあるべき世界から、現在何が求められるかを考えるバックキャストの手法。これをシャープに実行しているのがDARPAやX PRIZEだろう。そうなるとシーズとかニーズとか言っているのはもう時代遅れ、と分かるはず。ダボス会議でも『ソリューション・ドリブン』、つまり解決策からテーマを決めることが重要と言われるようになっている。では、ソリューションで何が求められているかというと、SDGsがある。しかし、ドイツのベルテルスマン財団の調査によると、SDGsが定める17のゴールに対して、日本の達成率はわずか15%。OECD25カ国中、15番目という低さ。2030年の到達目標に向けて、どういう手が打てるか、私達一人ひとりが、何ができるかを考えれば、解決策が出てきて、世の中はきっと変わるだろう」との見解を述べました。

一方、小宮山は、「いま、日本に必要なのは、葵の御紋(権威主義)からの脱却であろう。自分達で判断してやっていく姿勢である。日本から世界初のイノベーションを起すことが出来ればよいが、世界で起きているイノベーションをどんどん導入するのも重要。イギリスの踏切には『Cross at your own risk』と書いてある。日本だったら『横断禁止』になってしまう。法律を厳密に解釈したらできないことが多い。しかし、法律の解釈は時代によって変わっていくものだ。そして、最後の拠り所は判例。大切なのは、一人ひとりが自分で考えて勇気を持って進むことではないか」と指摘しました。

世界の中の日本

そして最後に「グローバルの中で日本は何に取り組むべきか。」について議論をおこないました。濵口 氏からは、「日本は、世界的に見ても稀な人種的・語学的・文化的に“均一な社会”であり、これによって受けている呪縛をどう解き放つかがポイントであろう」との指摘がなされ、これには、(1)海外で生きる体験を持ち、ダイバーシティを経験して、日本に戻ってそれを実践すること、(2)縦割の発想を超えてソリューションを生み出すシステムの構築、“コンバージェンス(convergence)”が重要であるとの見解が示されました。

小宮山からは、「目標を人間、自分自身に変えることが一番大事ではないか。イノベーションのスピードではアメリカ、中国が早いが、こういった社会では、不幸になる人も増えるのではないか。しかし、私達日本では、一人も取り残すことなく、全員が自己実現できるような社会を目指す必要がある。GDPファーストではなく、人々が幸せになる結果としてGDPが増えてくるというように考えるべき。そういう考えが日本を良くすると考えている。」とコメントし、対談を締め括りました。

MRIは2020年に創立50周年を迎えます。50周年に向けて、今回のような議論をさらに深め、共創を通じた社会課題解決に努めて参ります。(了)

TOPへ戻る