MRI株式会社三菱総合研究所

INNOVATION NETWORK FOR CO-CREATING THE FUTURE

INCF「社会課題セミナー」
-Open Innovation and Societal Issues-

未来共創イノベーションネットワーク(以下、INCF)の発足を機に、2017年4月25日、大手町のGlobal Business Hub Tokyoにて、社会課題セミナー「オープンイノベーションと社会課題」(主催:三菱総合研究所(以下、MRI)/共催:STAJE-JFIT、日本ベンチャー学会)を開催しました。当日はINCF会員企業、日本ベンチャー学会会員から100名を超える出席者を得て、盛会となりました。

プログラムの前半は、当社常務研究理事の大石 善啓が研究報告として、「MRIが考える社会課題とオープンイノベーション」について発表しました。また、テクノロジー・マネジメントの大家でもあるMIT経営大学院 教授、東京理科大 副学長のマイケル・クスマノ氏をお迎えし、基調講演をおこなっていただきました。プログラムの後半では、INCFのアドバイザーをお願いしています東京大学 教授、産学協創推進本部イノベーション推進部長の各務 茂夫氏(日本ベンチャー学会副会長・理事)をモデレーターに「オープンイノベーションで解決する社会課題」と題したパネルディスカッションも実施しました。

研究報告:「MRIが考える社会課題とオープンイノベーション」

大石 善啓

大石 善啓

大石からは、高齢化、人口減少、財政悪化、地域格差等の顕在化しつつある社会問題は、新たなビジネスを生み出すチャンス。複雑な社会問題を解決するためには、単体の企業ではなく、大企業・中小企業・ベンチャーなど多様な企業、大学・研究機関、行政がノウハウやプログラムを共有するとともに人材も交流させ、共創しながら連携する「ネットワーク型オープンイノベーション」が必要であることに言及。INCFで設定した重点6分野、『ウェルネス』、『水・食料』、『エネルギー・環境』、『モビリティ』、『防災』、『教育・人財育成』における社会課題の抽出にあたっては、政治・経済・技術のメガトレンドを俯瞰しマクロ環境を分析、顕在化している社会問題のインパクトを構造的・定量的に評価して、解決すべき「課題」を設定している旨、説明しました。

例えば、ウェルネスでは、顕在化する社会問題を「医療費・薬剤費の増加」「地域医療格差」「医療情報共有化の遅れ」「介護労働力不足」などに因数分解し、「社会的インパクト」と「新ビジネスの可能性」の2軸マップにマッピングしました。更に社会インパクトが大きく、ビジネスとしての発展性の高い社会問題を解決するために取り組むべき課題として、「予兆把握・予防による健康の維持・増進」、「医療・介護サービスの効率的な提供」、「高齢者の自立度向上」を抽出し、各課題への活用が期待されるイノベーションアイデアを例示しました。残りの5分野についても、ブレイクダウンした課題とイノベーション事例を紹介して報告を締めくくりました。

基調講演:「日本のイノベーションと起業家精神の謎」

マイケル・クスマノ氏

マイケル・クスマノ氏

「The Puzzle of Innovation and Entrepreneurship in Japan」と題したクスマノ氏の基調講演では、“なぜ日本では起業が起こりにくいのか”、“オープンイノベーションを起こすためにはどうしたら良いのか”を、MITが主導する地域起業家加速プログラム(Regional Entrepreneurship Acceleration Program以下、REAP)等の研究調査を通して得られたデータをもとに解説いただきました。

クスマノ氏によると、純粋な技術力、発明する力「イノベーション能力」(=I-Capacity)と、アントレプレナーに求められる「起業能力」(=E-Capacity)の2つの能力が、オープンイノベーションに必要とされているが、日本の場合、この2つの能力のバランスが悪く、「イノベーション能力は極めて高いが、起業能力が著しく低い」という傾向にある。イノベーション能力は主に特許の取得件数で、起業能力は起業数や中小企業の活性度などによって測られており、「2つの能力にギャップがあり、イノベーションがどうして起業に結びつかないのか、それが日本の謎」と指摘。クスマノ氏は、「商品化を重視しない企業体質」、「起業家・アントレプレナー育成に力を入れない日本の教育制度、社会文化」に、その原因を見ています。

しかし、クスマノ氏は「この数年でこのような状況が劇的に改善している」とも指摘し、克服すべき課題としてアントレプレナーの養成、技術革新への対応、全体を大きくするエコシステムの構築等を取り上げました。「大学、大企業を中心に、社会的にも、技術的にもイノベーションに向けたトレンドが日本にも起こりつつある。“今”こそが、日本が変わる好機である。」と講演を締めくくりました。

パネルディスカッション:「オープンイノベーションで解決する社会課題」

後半は、各務氏をモデレーターに「オープンイノベーションで解決する社会課題」と題したパネルディスカションを行いました。パネラーとして、クスマノ氏、ロバート・エバハート氏(サンタクララ大学 ビジネススクール 助教授、スタンフォード大学 STVPフェロー、スタンフォード大学 STAJEプロジェクトリーダー)、槇 祐治氏(トヨタ自動車 常務役員)、石井 芳明氏(経済産業省 新規事業調整官)、村上 清明(三菱総合研究所 常務研究理事)が登壇し、各パネリストがそれぞれの立場から、日本におけるオープンイノベーションの課題や可能性について議論を交わしました。

各務氏からは、「最近、大学では起業に目を向ける学生が増えており、イノベーションへの機運が高まっていると感じている。」と期待感を述べたうえで、GE、IBMなどの米企業が大胆に事業ドメインを変えながら成長を遂げてきた一方で、日本企業が相変わらず製造に固執し過ぎている点について、懸念を示しました。

石井氏からは「社会課題解決にはイノベーションおよびこれを生み出すためのエコシステムが必要との認識のもと、現在、政府では、エコシステム構築に向けて、人材育成、ベンチャー・大企業への支援、場作りに取り組んでいる」。特に人材育成においては、若いうちから起業体験することでチャレンジする心、人とつながる力を養うことを狙い、小中学校を対象にしたアントレプレナー教育をスタートさせた。また、“Thinker to Doer”をキャッチフレーズにセクターを超えたイノベーター育成プログラム『始動 Next Innovator』を実施し、イノベーションの担い手のクリティカルマスを作ることを目指している等、関連施策についてご紹介いただきました。

エバーハート氏からは「オープンイノベーションは、プロダクトアウトなのか?マーケットインなのか?」「副作用はあるのか?」「あるならば、それに対して何ができるのか?」という疑問が提示されました。技術シーズだけではイノベーションは起こり得ない。「日本は技術、プロダクトに偏重しすぎているのではないか」。「オープンイノベーションとは、マーケットを発見し理解することそのものなのではないか」と指摘しました。また、オープンイノベーションの副作用として、アメリカでは一極集中が生まれ、社会問題化している。端的な事例がGoogleによる企業買収であり、オープンイノベーションが進むほど独占が進むというジレンマを生み出していることが紹介されました。

槇氏からは、自動車産業が「情報化、電動化、知能化」の波の中で、もはやプロダクトアウトの発想では乗り切れないこと、そのためにトヨタではヒューマンセントリックな発想に軸足を置く方向にあることが示されました。今後は「センシング技術、アクチュエーター、インテレクチュアル(AI)が三位一体となって、ユーザー一人ひとりに適していくことが求められるのではないか」。そこでは、「ロボタイズ」「インディビジュアライゼーション」がキーワードとなる。このような問題意識を踏まえて、2014年には次世代モビリティ社会実現のための活動を支援する「トヨタモビリティ基金」、2015年にはベンチャービジネスに投資するファンドを組成、2016年には先進的AI開発に取り組む「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」(TRI)を設立してきた。「自立分散型の小集団活動をネットワーキングしていくことで、オープンイノベーションの実現を目指したい。」と語りました。

村上からは、INCFで先ず行うのは「ゴールの設定」。取り組むべき社会課題をブレイクダウンし、活動のフレームワークを示すにあたって、問題と課題の位相を把握することの重要性を指摘しました。例えば、「病院が足りない」という社会問題に対して「では、病院を建築すればいい」では解決にならない。「人間起点で問題を把握し、解決策を探ることが重要である」とし、日本企業が陥りがちな「部分最適によるオーバースペック」を避け、「要素の合計が全体よりも大きくなるような解決策へとリードすることもMRIの役割と考えている」と述べました。また、社会問題解決は「外部経済効果が大きいため、経済的価値に転換しにくい」という現実的な問題があり、これについては、社会課題解決がビジネスとして成立するようなビジネスモデルを開発する社内チームをスタートさせたところ。この他にも、社会インフラのプラットフォームの整備や、社会実装に向けた場の提供、制度設計、政策提言等においても、その役割を担っていきたいと説明しました

各務 茂夫氏、石井 芳明氏、ロバート・エバハート氏、槇 祐治氏、村上 清明

左から各務 茂夫氏、石井 芳明氏、ロバート・エバハート氏、槇 祐治氏、村上 清明

最後に、各務氏に「一昔前はオープンイノベーションと言っても大企業主導の共同研究に過ぎなかった。それが今や悪しき自前主義はなくなり、大企業の視線も変わったし、ベンチャー企業も大企業に阿ることなく、堂々と渡り合う時代になった。オープンイノベーション実現に向けたダイナミックな動きが、この場から始まっていくのを期待したい。」と、締め括っていただきました。

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